BtoB企業が抑えるべき、ターゲットに選ばれる「尖った」コンテンツ戦略【WACULと語る】
特定分野におけるオピニオンリーダー企業をお呼びし、
視聴者に深い学びを与える好評企画の「Top Leaders」シリーズ。
今回は、株式会社WACULの代表取締役の垣内氏にご登壇いただき、「コンテンツ戦略」について深堀いたします。
現在、あらゆるマーケティング情報はネットやSNSを通して収集することができ、またそれを実行するための便利なツールも存在し、以前より生産性高く施策数も増やせる時代になってきました。
しかし一方で、競合との差別化を図ることが難しくなってきたとも言えます。
今回のテーマでは「コンテンツ戦略」に着目し、ターゲットに選ばれるための「普通」ではない「尖った」コンテンツ戦略について解説していきます。
そもそも尖ったコンテンツとは
ターゲットに選ばれるコンテンツ発信のポイントは「第一想起の獲得」
大熊: 尖ったコンテンツについてお伺いしていくにあたり、まずコンテンツ発信の目的、ゴールからお伺いしていきたいと思います。
垣内さんは、コンテンツ設計をする上でのポイントは「第一想起」の獲得を目的とするとよく発信されていますが、これはどういう背景があってそうした考えに至られたんでしょうか?
垣内氏: そうですね。
特に、弊社が提供しているようなマーケティングDXのサポートやコンサルティングのサービスは、相当信頼がないと買いませんよね。よくわからない人に相談できない。だから、提供するまでには2つの要素が必要です。1つ目が圧倒的な権威性。「デジタルマーケティングといえばこの会社なら安心だろう」っていうところです。
2つ目が「身近に聞ける人がいる」ということです。例えば、いくら私の本を読んだからといって私のX(旧Twitter)にDMしてくるぐらい熱量のある人はほとんどいません。そういう方々は、たまたま弊社の担当と接点ができた際、たまたま展示会で名刺交換した際など、それをきっかけに、「実は本読んでまして…」と言ってくださいます。
そういうきっかけ作りを、弊社ではいわゆるマーケティング・プロモーションと呼ばれるような領域として実施しています。弊社が電話をかけたりリード獲得を目的として動いているチームはもともと弊社と信頼関係があるお客様と接点を取りに行くことを目的にやっています。
逆に、営業力がとても強くない限りは、広報活動とかその企画と活動とかをなしにリード獲得だけやってると次第に行き詰まっていくと思います。
WACULの特色は、広報的な活動として私が書籍を出したり、研究レポートと名付けて世の中にデジタルマーケティングの知見を無料公開していたりする点です。リスティング広告から問い合わせがある方も、本を読んで、共感していると言ってくださる方が非常に多いです。そのため、具体的なマーケティング施策っていうのは、我々が情報発信しているものを知った方がどこかで触れた上で来てくださってるにすぎないかなと思ってます。
そういった意味では、根源にあるのは、我々が思想として持っているものをちゃんと情報発信し続けていることによるものなのかなとは思っています。
大熊:広報活動の一環として情報発信されているんですね。
垣内氏:そうですね。広報活動に関しては、私の感覚で言うとリード獲得とかアポ獲得みたいな発想は1ミリもありません。
リード獲得っていうよりも、どちらかというと一般的には第一想起獲得が目的です。
「デジタルマーケティングをやってる会社どこだろう」→「WACULじゃない?」って思ってもらえるのを広報の目的として、そちらに完全に振っています。
大熊:僕もこの業界15年くらいいるんですけれども、「リードを刈り取る」という言葉って昔からすごいいっぱいあると思っていて、「刈り取られる」ほどユーザーさんも何も考えていないわけではないだろうと思います。いいプロダクトだったら、自ずと人は近づいてくるだろうし、そこが広報に力を入れていくところですよね。
垣内氏:そうですね。唯一無二の商材であれば広告を出すべきでしょうし、逆に差が全くなくてどうしようも差別化ポイントがないということだったらもう価格とか差別化して比較サイトを出して…みたいな話になると思うんですが、そういう業界でもない、特にデジタルマーケティングのベンダーとか支援会社の差は発注者からするとよくわからない。
広告代理店も制作会社もコンサルも突き詰めると担当者次第だし、ツールも使い慣れているかどうかみたいな話なので、違いや良さがよくわからないと思うんですよね。だから、我々がどういう思想を持ってご支援をしてるかというところを伝えるために、違いや強みを示す広報的な活動にフォーカスしてるっていう考え方ですね。
大熊:僕も書籍を読ませていただいていて、例えば「コンテンツ周りだったりBtoBマーケティングのコンサルはWACULの垣内さん」というのは第一想起としてあります。ここからWebサイトに来た時、垣内さん個人の想起からサービスの想起に変換させるために取り組んでいることはありますか?
垣内氏:「勝ちパターン」という考え方が、まさにその答えになります。例えば、『デジタルマーケティングの定石』という本では、世の中のビジネスは18個に分類でき、それぞれに効果的な勝ちパターンを説明しています。これらの勝ちパターンは全部体系化されているので、弊社の知見を期待するお客様には問題なくご提供できていると思います。
大熊:垣内さんという個人に依存しているというより、再現性のある知見に価値があるという想起がつくれているんですね。
コンテンツ制作において重要視すべきは「面白いかどうか」
大熊:WACULさんのコンテンツの中で特徴的なものをいくつかピックアップさせていただきました。下図の上の段は基本的にWACULさんのノウハウを全公開されていらっしゃるようなウェビナーだったりホワイトペーパーです。下の段は基本的に具体的な数字がかなり細かく載っている研究レポートです。
WACULさんの、コンテンツを作る上での重要視されていることはどういうところでしょうか。
垣内氏:コンテンツ制作において重要視していることは、まず、「見てる人が面白いかどうか」です。
例えば、ノウハウは少しでも隠した瞬間に面白さが減ると思うんです。だから、基本的にはノウハウは全て公開しています。なぜかというと、ノウハウを全て公開しても真似できないからです。
私は本にノウハウを全身全霊で全て書いたつもりです。しかし、一部のすごく実行力のある方や経営者で自らマーケティングに携わっているという方でない限り、実行しようと思うと社内の調整の壁などの理由ですぐには実行できない会社の方が多いんです。
だから、ノウハウは全公開というのが私たちのスタンスです。BtoBマーケティングでコンテンツといえば株式会社才流の栗原さんや株式会社ベイジの枌谷さんもいらっしゃいます。彼らも同様のスタンスですよね。それは、全公開したとしても真似できないし、公開しないと面白くないというのが理由だと思います。
数字に関しても、数字や根拠がないと納得していただけないっていう風に思っており、非常に重要視しています。例えばGoogleアナリティクスのデータだけでも累計4万サイトが登録された「AIアナリスト」というツールを持っていて、そこで蓄積されたデータや根拠、ノウハウをできるだけ出すようにしています。発想としては、あった方が世の中にも説得力がありますし、あんまり世の中に出ていないものなので、発信しようという感じですね。その根源にあるのは、コンテンツは見る人が面白くないと意味がないという思いです。
大熊:認知を取るという観点だと、ノウハウを公開してユーザーさんにしっかり見てもらって広がっていくということが大事ですよね。
垣内氏:あくまで広報活動という位置付けで、「デジタルマーケティングといえばWACUL」と第一想起してもらえるかどうかが最も重要なので、少しでもノウハウやデータを出し惜しみしたり、リード獲得をしようという目的外の邪念が見えたりすればするほど「ダサい」という感覚です。もちろん、情報公開の度合いはバランスを取るべきですし、リードやアポの獲得と想起の獲得はどちらも重要なので、目的別に明確に役割分担を持った上でやるべきだと思います。
コンテンツの面白さを決める「無駄」と「本音」
大熊:コンテンツを制作する上で、「ユーザーが面白いと思うかどうか」はポイントになると思います。面白さとはどう判断していけばいいのでしょうか。
垣内氏:面白いという基準は2つ、「無駄」と「本音」があるかどうかです。このポイントは各社でトップの成績を誇る営業担当者の方々からも共感を得ました。
営業担当者の方は、成績がトップであればあるほど売り込まず、「無駄」と「本音」を巧みに使っています。
まず、「無駄」は、商売と関係ないような、普通に面白い話です。ここでいう面白いというのは、ビジネスの周辺の知見でも、何なら本当に世間話でもよく、「この人、売り込みに来たのに全然売り込んでこない。でも会っていて面白い。」と思ってもらえるのが「無駄」です。
もう1つは、「本音」で、自社にマイナスになる可能性があることも正直に言うことです。例えば、テレビCMが専門外領域だった場合に、お客様に別の広告代理店さんに行ってくださいと伝えます。このように、得意じゃないことはお断りするくらい本音で、他社と比較して何が強くて弱いかも客観的に評価して、自社の強みと弱みを伝えます。
この「無駄」と「本音」の要素を含めてコンテンツを作れば面白くなると思っています。
大熊:「無駄」と 「本音」、とても納得しました。 ここで少し違う側面として、具体的に僕が面白いなと思ったWACULさんのコンテンツについて伺いたいです。こちらにあるウェビナー形式のライブ診断イベントは、リアルタイムでラクスさんのサイト広告・SEO・メールを徹底分析するという内容で、こちらは結構ハードルが高いコンテンツだと思いますが、これはどういう意図で作られていますか?
垣内氏:これは当時、「デジタルマーケティングの現状をまるごと診断するサービス」のマーケティングに注力していた時期に作ったウェビナーです。弊社は幅広いウェブサイト、広告、SEOなどの知見があるので、お客様の課題がどこかをライトに診断するエントリー商材を作りました。どう拡散しようかなと考えた際、もう診断を目の前にして、実際にやればいいんじゃないのかと単純に思いつき、一番乗ってくれそうだったラクスさんにお声掛けしたら快諾していただけたというコンテンツです。
大熊:これはエンタメ要素が大きく、ライブ配信だからこその面白さがあるコンテンツだなと思いました。
これも先ほどの面白さを重視されているんでしょうか。
垣内氏:そうですね。面白いだろうなというのはあります。明らかにさっきの「本音」と「無駄」で言うと「無駄」です。これは事前に特に台本もないので、その場で反論されてこっちは負ける可能性もありました。
大熊:台本、ないんですか?
垣内氏:ないですないです、何もないです。逆に、診断される側もその場で当日言われるので「うっ」てなるみたいな、お互い「本音」と「無駄」しかないみたいなイベントで、予定調和な感じが出ていなかったのは台本がなかったからだと思います。リアルにそのままの反応が面白かったということなのかなと思います。
「尖ったコンテンツ」の定義と3つの特徴
垣内氏:「尖る」っていうからには「他が出せない」ってことだと思います。
「他が出せない」っていうのはどういうことかっていうと、結局商売と関係ない無駄なことに予算を投下できるのか、商売に相反する本音を言っていいのかっていうことです。だからこそ、他者ができない状態になって、「尖る」ということが起こるわけです。それに尽きると思います。
さらに、より尖ったコンテンツと特徴を細分化すると、非常識・網羅性・エンタメの3つがあります。
1つ目の非常識は、まさに先ほどの「本音」です。世の中の常識と思われているもの、あるいはみんな少し疑っているかもしれないあるあるをズバッと切るようなことを言うというのは明確に尖った方向性です。しかしこれは諸刃の剣なので自分も刺される可能性がありますよね。
2つ目は網羅性です。網羅性とは、気が狂ったようにコンテンツ量を増やすことです。例えば株式会社才流さんはこれに当てはまります。「どんだけ書くんだよ」「展示会のTips何十個あるんだよ」のような、若干読む気にならないぐらいの網羅性です。あれはとても尖っていますよね。「あそこまでやんないでしょ普通」みたいなものは、ある意味圧倒的に尖っています。
3つ目はエンタメです。見ていて楽しいタイプのもの。分かりやすく言うと芸能人を起用するのもいいですし、「飲み会来るよりこれ見てたら面白い」って思えるようなエンタメ要素がないと尖らないんだと思います。
このように、ブレイクダウンすると尖ったコンテンツには非常識・網羅性・エンタメの3種類があると思っています。
大熊:会社の規模によっては尖ったコンテンツを出しづらい状態がありそうですね。
垣内氏:そうですね。尖ったコンテンツとは、かなり高いエンタメ性があって笑えるぐらい面白い要素が必要であったり、自社製品の弱点も包み隠さず本音が言えるような状況で生まれたりしますが、企業のスタンスによってはこうしたコンテンツは経営層や広報部門の承認を得にくいですよね。つまり、自社サービスの弱みや競合他社の優位性を発信するというような、他では言えないところで尖るという発想自体が、新規事業やベンチャー企業向きの戦略といえます。
逆にいうとオーソドックスなコンテンツを出すことで安心感にもつながるので、必ずしも尖る必要はないと思ってますけど尖れないという会社の立場もあると思います。
大熊:企業のスタンスがどういうコンテンツを作るかに影響するんですね。
垣内氏:そうですね。企業スタンスが決定的にコンテンツづくりの方向性に影響を与えると思います。
例えば弊社が一番お伝えしたいことは「デジタルマーケティングの無駄を省きましょう」ということです。「無駄を省く」って言った瞬間に仕事が減ります。具体的には、ディスプレイ広告なんていらないと言った瞬間に数千万円分の依頼を失いますし、リニューアルはいらないと言った瞬間にも数千万円分の依頼を失います。収益が減るので「普通はこんなこと言えない」というところを、「無駄を省く」という弊社の思想のもと、「いらない」と言うことができます。これが結局弊社のスタンスであり、そこが差別化要素になり、コンテンツの強さ、「尖り」につながります。
大熊:先ほどの「本音」と「無駄」の話に関連すると、企業のスタンスを踏まえた「本音」の理解と発信は、現場のマーケターだけだと実践が難しいようにも感じます。経営層と目線を一緒にしながらその「本音」をコンテンツにするには、どうしていくといいでしょうか。
垣内氏:経営サイド、現場サイドの両側面でお話しします。
まず、現場サイドについて、皆さんの違和感をコンテンツにするという方法があります。
例えば、毎回A/Bテストを広告代理店さんに発注し、「0.01ポイントだけこちらが勝ったので、こちらのクリエイティブがいいですね」というやりとりを数十回繰り返したとします。そこで、「なんかA/Bテストやっていたけれどこれ、意味あるのかな」とかって思った時に「いや意味ないです」というひとことを発信する。これが「本音」の発信です。こんな、日々の業務の中で生まれる「何かこれおかしいな」とか「何か違和感あるな」って思っているようなことはたくさんあると思うので、この部分をコンテンツにするという方法です。
一方で、経営者サイドに関しては、そもそものスタンスが重要です。こういったコンテンツは経営者が腹を据えて「やる」と言わないと絶対に頓挫します。なぜなら、自社のサービスの弱点を全面に言えるかっていうとそんな経営者はそうそういないですよね。だから、ここに関しては、「ちゃんと本音を言うんだうちの会社は」と決めるっていうっていう経営者の意思決定も明確に必要です。
大熊:コンテンツ戦略を考えていく上では当然、マーケターだけではなくて経営層の巻き込みも必要ですね。
垣内氏:そうですね。超大企業では難しいでしょうけど、100人ぐらいの企業だったら巻き込んだ方がいいですよね。
尖ったコンテンツを作る秘訣
コンテンツを作れない企業の共通点とは?
大熊:企業規模などの条件ではなく、コンテンツを作りたいのに作れていない、そんな企業様の共通点にはどんなことがありそうですか。
垣内氏:コンテンツを作っている人が現場に出ていないケースです。
僕はコンサルティングを常時10社ぐらい自分で見ていたり、営業と現場に出る中で、目の前でお客さんが困っていることや間違えていることに直面したり、論点がずれた議論をしている人がいたりします。
そこで、「世の中ずれてるな」と思ったことをそのままコンテンツとして書いていくので、言いたいことがいくらでも出てきます。逆に言えば、言いたいことがない時点で、机上の空論でマーケティングをやっていたり、お客様のことを数字でしか見れていなかったりして、コンテンツが作れないのではないでしょうか。
大熊:つまり、コンテンツを作る、いわゆるマーケターの職種の方たちは、現場になるべく出た方がいいってことですか。
垣内氏:そうですね。もし現場に出るのが難しければ、コンテンツがある人たちに依頼することでしょうね。マーケターの人は完全にデザインしてアップロードするだけの仕事にして、面白いコンテンツを書くのは別の人に任せるということもできると思います。
大熊:なるほど。例えば御社だと、お客さんと向き合われているコンサルタントの方が一番リアルな生の声を拾われてるってことですもんね。
垣内氏:そうですね。弊社の場合、本や研究レポートといった尖ったノウハウ提供系のコンテンツに関しては僕を中心に今も現場に出ている経営陣が監督して作っていて、SEO対策を施した検索からの流入を目的とするオウンドメディアに関してはSEOサービスを提供している事業部が作っています。今までの話にあるような、想起を獲得する目的での尖ったコンテンツが作れない原因は、コンテンツ制作を指揮するリーダーに現場感がないっていうことに尽きると思います。
大熊:コンテンツがある人たちに依頼するというお話に関連して、「マーケティング部門の協力依頼先の候補は、営業やカスタマーサポートあたりが自然と候補となるのでしょうか?」というご質問をいただいています。
垣内氏:営業・カスタマーサクセス…彼らも適切だと思いますけど、大本命はトップ営業をしている経営者だと思います。会社規模にかかわらず、成績トップで営業している人って圧倒的にいいコンテンツを持っています。私の知る限り、エンタープライズ企業であっても副社長が営業するところもあります。そういう人は、経営目線の思想と現場感のあるコンテンツを両方持っていますよね。そういう人に論点だけでももらって書いていくことができると一番いいです。営業と一括りにするのではなく、事業開発とセットで営業してるような方、自分の思想が通らないことに苛立ちを持っているような方だと、経営に近い人になると思います。
大熊:一定の管理職以上になるとちょっとマネジメント寄りで現場からは離れているというケースもありますが、その場合はどうでしょうか。
垣内氏:営業本部長がいいと思います。その場合は営業で一番トップだったら同じことを思っているはずなんで大丈夫だと思います。もしくはコンサルティングやデリバリーの本部長ですね。
大熊:そうすると、マーケターの方は、コンテンツ制作以外の業務もある中で、社内のハブになるような、社内調整が重要になってきますね。
垣内氏:そうですね。社内調整は非常に大事ですね。
大熊:ここでご質問いただいています。「社内で権威のある人に認知施策の先陣を切ってもらうためにマーケ担当者としてどのように協力要請・説得したらよいでしょうか?」。
垣内氏:難しいですね、これはですね、あの…すごく難しいと思います(笑)。
以前、コンテンツを作るために経営者を説得してほしいとマーケティング担当者から依頼を受けて、実際にお願いしに行ったことがありますが、書かなかったですね。その重要性を認識していないとか書くことに苦手意識があるんでしょう。僕も重要性をなんとか認識させたくて、純粋想起がある会社が選ばれる確率はもう5割以上であるという研究レポートを作ったんですけど、効きませんでした(笑)。
大熊:トップの方が非協力的な場合にどうするかという話は、起こりがちですよね。
垣内氏:そうですね。その場合は、別にできる人を探したりとか、協業でもいいと思います。うちのメンバーも、僕からヒアリングして10分ほど話したら、その内容を記事にできる人がいるので、分業はできるはずです。そこの分業ができる場合は、ヒアリングする対象さえいればコンテンツ制作はできると思います。
コンテンツを作るプロセス
垣内氏:僕の場合、最近あった嫌なことを書き出します。クライアントに通らなかった提案、営業で提案して失注したときなど、昔のことを含めて嫌だったことをひたすら思い出します。絶対僕の提案があっているとちゃんと証明してやろうと思って研究レポートなどを作ります。だからそういう熱量がないとおそらくコンテンツなんて面白くないですよ。そして、同じことを思ってる人がいるはずなので、これが共感を生むということだと僕は思っています。
大熊:嫌なことからそれを解消・証明するためにコンテンツ化していくというプロセスですね。この熱量の持ち方をどこで作っていくかというのが大事になってきますよね。
垣内氏:そうですね。これは会社によると思います。弊社は「デジタルマーケティングの無駄を削減したい」という思想が根底にあるので、「なんて無駄なんだ」と個人的に思ったところから深掘りすれば面白いコンテンツになります。これが全然違う業態・会社のビジョンがあったとすれば、そこから作っていくことになると思います。
大熊:そうですね。どこの会社も、MVPやPurpose、事業目的が存在しています。そこに紐づく営業をしているのに、「理解されてないのはどうして?」ということが発生した時に、この部分を証明する熱量でコンテンツを作っていくってことができれば同じプロセスで作れますね。
コンテンツの制作頻度とPDCA
大熊:実際にコンテンツの制作を始めていく上で、公開頻度や見直しについてはどうでしょうか。
垣内氏:初期は、一定の頻度で見てもらわないと覚えてもらえないと思ったので、最低月1、2回出そうとしていました。高い頻度と面白いコンテンツの認知を広めようとしたので、一定の認知が広がるまでは頻度高く取り組んでいました。
大熊:業界認知がある程度取れるまでは、やっぱり頻度は高いに越したことないですよね。
垣内氏:質は下げずに、毎回面白いと言っていただける前提であれば、頻度は高ければよいでしょう。ただ、毎回読んでもらうのが大変なので、月1、2回とかで十分なのかなというふうに思います。
大熊:重めですからねコンテンツの内容が(笑)。ちなみに、過去に出したコンテンツは改めて利活用されていますか。
垣内氏:利活用はもちろんしています。まず、デリバリーサイドが日々使っています。例えば、ものによっては営業活動の時に見せたり、それを基に商談をしたりしています。他には、人気のある研究レポートを紹介するウェビナーをやりました。
大熊:リッチなコンテンツだからこそ、作ったものが資産となり、これをその都度で利活用していくみたいなことも考えられているんですね。
垣内氏:そうですね。営業資料に常時入っている研究レポートもあります。
コンテンツの効果、測っている?
大熊:『WACULテクノロジー&マーケティングラボ』については、以前からかなり長期的に注力して、レポートやコンテンツも数値が全公開されていると思います。このコンテンツ戦略はいかがですか?
垣内氏:『WACULテクノロジー&マーケティングラボ』には2つ目的があります。1つ目は、「デジタルマーケティングといえばWACUL」という第一想起を取るために、「こんな領域まで詳しいんだこの会社」と思ってもらえるような調査結果をまとめています。
もう一つが、弊社のコンサルタントのデリバリー負荷軽減のために書いています。
例えば、弊社のコンサルタントが「メール配信を増やして毎日送ってください」と提案した場合です。「いやいやそんなメール送ったらお客さんに嫌われちゃうじゃないですか」とお客様からの疑問や不安があった場合、研究レポートで効果が明らかだとファクトを持っていくだけで説得がスムーズになっています。
大熊:事業サイドの負担軽減という目的もあるんですね。
このコンテンツは濃い内容を高い頻度で公開している印象があります。ここは会社としては力を入れていくっていう方針ですか?
垣内氏:会社としてというよりも僕が個人的に力を入れてやってました。経営者は個人的に力入れると思わないと費用対効果もよく分からないし続けられないですよね。
大熊:第一想起を獲得しようとする場合、中期的な投資になるコンテンツが必要となってきますよね。その場合のKPI、費用対効果はどう考えられていますか。
垣内氏:費用対効果はありません。例えばコンテンツを1つずつアポ換算していたら、コンテンツは一生作れず、一生第一想起は取れません。もちろん、反応は見た方がいいです。PVがどれだけ伸びたか、あるいはお客さんに説明したときどれだけ刺さるのかなどは分かるので、そういった部分で定性的な評価はできます。しかし、続けていくこと自体が重要なものもあると思います。例えば、本はその一つです。経営リソースを大きく使って書くものだけれども、これが元を取れてるかどうかなんてなかなか分かりづらいです。
大熊:ありがとうございます。
面白いコンテンツを配信し続けていくにあたり、定量的な反響度合いも計測していますか?例えばある指標が低すぎたとしても、低すぎるからこのネタは今後控えめにする・取り扱わないという判断はせず淡々と配信していくスタンスでしょうか?
垣内氏:
定量的な反響は、中長期では振り返ります。1年経つと、全然反響がない、売上につながっていないなど分かるので見ます。ただ、すごい短期でPVが足りない、コンバージョンがない等でやめるかというとそういう類の問題ではありません。短期でやるとすればTwitter(X)ですね。Twitter(X)でなんかつぶやいて「これ、伸びるな」みたいなのが分かったらこのトピックで研究レポート書いてみる時はあります。そのぐらいのものは定量的に見ていきますが、割とコンテンツに関しては月次などの短期で計測して判断はしていくものでないと思います。
大熊:そうなると、コンテンツの成果はどう測るべきかと疑問を持たれる方も多いと思います。例えば、自社の想起度や権威度を社内で分かりやすく伝えるためのスコアリングをしているのかや、面白いコンテンツが一定成果が出たと判断するときの基準などです。
垣内氏:本気で測ろうと思うと、この人はどういった経路で自社を知って問い合わせているのかをアンケートで聞くくらいしかできません。もうそれだけだと思います。
見たコンテンツを聞いて、例えば、受注につながった人のうち実は8割が本を読んでいたというデータを取ればいいと思います。
ただ、そんな厳密にやる必要あるのかというのも疑問です。
もちろん、PVが極端に少ないコンテンツはそもそも見られてないので意味がなく、やめたほうがいいでしょう。例えば、弊社の場合、業界特化のレポートはPVが少ないです。それ以外にも、反応が少ないテーマをわかっていて、それらを出してはいけないという方向性はあります。しかし、それ以外はもう出していけばいいと思います。なぜならコストがそこまで大きくかかっていないからです。そういう意味で、成果を測る必要がそこまであるのか疑問ではあります。逆にいうと、別に評価しなくていいという立て付けで始めた方がいいと思っています。
大熊:なるほど。自身が持ってる強みをソリューションにした事業があり、この事業を展開する上での「本音」の部分をちゃんと定期的に発信し続けたら共感してくれる人がファンになっていくというモデルなんですよね。
まとめとして、「尖った」コンテンツ戦略には、中長期で投資的な目線をもつこと、一定の頻度でおもしろいコンテンツを出し続けることが重要だということですね。今日お話しした中でも出たように、差別化が難しいサービスがたくさんある中で、選ばれるためのコンテンツ設計では信頼を得ることが欠かせません。そのためには、マーケティング活動や営業活動の手前で前提として広報的な活動をしていくことによって、「第一想起」を獲得していく必要があります。そのために、日々の業務で感じた違和感や、サービスや会社の思想がなぜか伝わらないことによるもどかしさをコンテンツとして発信していくことで、「無駄」と「本音」が詰まった、「尖った」コンテンツができていくということでした。
「第一想起」を目的に、ターゲットに選ばれるコンテンツづくりをどう施策に落としていくかについては、また別のウェビナーでもお話しできればと思っています。
▼ FanGrowthのウェビナー情報はこちらから
登壇者プロフィール
株式会社WACUL 垣内 勇威氏
東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善施策の提案から施策効果の検証までデジタルマーケティングのPDCAをサポートする自動分析・改善提案ツール「AIアナリスト」を立ち上げ。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Marketing Lab.」を創設し、所長に就任。現在、 研究所所長および代表取締役として、事業のコアであるナレッジ創出を牽引。新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど長期目線での事業推進の責任者を務める。2022年5月、代表取締役に就任。
エキサイト株式会社 SaaS/DX部門管掌 執行役員 兼 FanGrowth事業責任者 大熊 勇樹
デザイン会社、ベンチャー企業にて主に新規事業部門での役員経験を経て、2021年4月エキサイトに入社し、執行役員就任。入社後にSaaS/DX事業部を立ち上げ、2年で4プロダクトリリースを行う。事業責任者を兼務している【FanGrowth(ファングロース)】では、現在リリース2年で1200社のマーケターコミュニティを構築し、組織拡大をしている。