これからのBtoBイベントのあり方~ターゲットに選ばれるイベントをどう作るのか?【Peatixと語る】
特定分野におけるオピニオンリーダー企業をお呼びし、視聴者に深い学びを与える好評企画の「Top Leaders」シリーズ。
今回はPeatix Japan株式会社の取締役・CMOの藤田氏にお話しいただき、「イベント戦略」について深堀いたします。
現在B2Bマーケティングにおいて、特にSaaS・IT界隈では技術の発展により、競合との差別化が激化し、リード獲得や商談獲得に伸び悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
今回はそんな課題を解決するべく、いま注目のイベントマーケティングについて語っていきます。
これからのBtoBイベントの潮流
藤田氏: コロナ禍以前からお仕事をされていた方や、イベントやウェビナーに携わっていた方ならご存じのように、コロナ禍前はほとんどのイベントがオフラインで行われていました。
下図のグラフでは、赤がオフラインイベント、青がオンラインイベントを示しています。ビジネス系のイベントに関して言えば、コロナの到来とともに、エンターテイメント系イベントと同様に、一気にオンライン化が進みました。実際、現在ではビジネス系イベントの約7割がオンラインで開催されています。
藤田氏:また、オフライン、オンライン、ハイブリッドの形式別にイベントの開催数を見ていくと、オンラインイベントが増加している一方で、オフラインイベントも依然として増加傾向にあります。
注目されていたハイブリッド型イベントについては、期待されていたほど大きな成長を見せていないのが現状です。ハイブリッドイベントの理想形は、オフラインイベントが満席であり、さらにオンラインでも視聴できる形で、イベント会場に来られない方たちも参加できるというものだと思います。
しかし、ビジネスの世界では、オンライン配信が可能になった瞬間にそちらに流れるケースが多く、会場が少し寂しくなる一方で、オンラインにはそれなりに参加者がいるという状況が発生しています。また、配信の手配も含めて非常に大変で、特に生中継ではインターネット環境など多くの部分に気を遣う必要があり、イベント運営のハードルが大幅に上がっていると感じます。
藤田氏: 最近では、オフラインとオンラインのイベントを目的別に分けて開催する方が増えている印象です。オフラインイベントが主流だった頃は、懇親会が必ずセットになっており、前半で話を聞いて、後半は名刺交換の時間が設けられるという形式が一般的でした。
しかし現在では、学びや知識を得る情報収集の場としてはオンラインが中心になっています。オフラインのイベントについては試行錯誤が続いているようですが、最近ではビジネス系イベントでミートアップ、つまり交流会や人との出会いにフォーカスしたものが増えている傾向にあります。
また、イベント自体の総数が増加しており、2020年から2022年頃までは、ある程度企画すれば集客が見込めた印象がありましたが、現在では集客のハードルが高くなり、それに伴って考えるべき課題が増えています。
藤田氏:セミナーの配信方法も変わってきています。 以前は、セミナーをライブ配信で行い、「ここでしか聞けない」という形で打ち出していたと思いますが、2021年から2023年までの間に、アーカイブ配信の集客依頼数が約3倍に増加しています。背景には、イベント主催者が企画を考え、登壇者と調整するためのリソース不足が課題となっていることがあり、過去の人気イベントを再利用することで、リソースを節約できるという利点があります。また、参加者側も、生配信に間に合わなかったが情報に触れたいというニーズがあり、アーカイブ配信がそのニーズに応えているのだと思います。
この点について、大熊さんはどのようにお考えでしょうか?
大熊: 私たちは、2022年頃にはアーカイブ配信を行っていませんでしたが、最近では100%アーカイブ配信を行っています。1日だけのイベントに比べて、2日目をアーカイブにするだけで、平均視聴者数が150%増加しています。現在感じていることとして、視聴者がアーカイブ視聴に抵抗なく、むしろ慣れているという点があります。
イベント視聴者の3つの変化に対するマーケティング戦略の再構築
大熊: イベント運営に敏感でなければならない事業ですが、2022年、2023年の立ち上げ時期には、主にリードを集めるためのウェビナーを実施していました。当時はウェビナーが飽和状態にはなっておらず、マーケティング文脈ですらウェビナーの数は少ないと感じていました。そのため、4社程度で共催ウェビナーを行うと、ざっと200人ほど集まる状況でした。しかし、ある時から集客が減少してきました。
大熊:直近では、2024年のイベントで大きく趣向を変えました。まず、企画に関しては徹底的に尖らせることにしました。その結果として作ったのが「トップリーダーズ」です。これは、業界で影響力のある企業様に戦略をヒアリングするという企画です。
また、カンファレンスの開催によって、大手企業様からの視聴を取り込み、具体的な事例を紹介するウェビナーや、自社でしか提供できないコンテンツの配信へとシフトしました。これらのイベントには全てアーカイブを設定し、オフラインイベントも月に1〜2回は必ず実施するようにしました。
大熊:このように切り替えた理由は、3つの変化を感じたからです。
1つ目は、視聴者のウェビナーリテラシーの向上です。その結果、似たようなタイトルのウェビナーを実施している企業が増え、視聴者の関心が薄れている。つまり、企画の重要性が増しているということです。
2つ目は、情報収集のためにウェビナーを視聴していた方が多かったのですが、現在では、情報収集よりも、そのウェビナーでしか聞けないTipsがあるなら聞きたいという風に、ウェビナーに対するニーズが変化してきています。
3つ目は、情報発信元の信頼性が重要であり、誰が話しているのか、どのような実績を持つ企業が話しているのかによって、集客数が大きく変わってきています。
ですので、リードを単純に大量に集めてファネルに落とすリードベースマーケティングだけでなく、そこにコミュニティマーケティングを取り入れる形に変えました。
具体的には、企画自体を尖らせる必要があり、尖った企画によって潜在層への認知はカンファレンスで行い、関心度の引き上げは「トップリーダーズ」で行い、さらに顕在化を促進するために事例ウェビナーを中心としたコンテンツを提供しています。しかし、このファネルを作っても、以前に比べると商談化が難しくなってきています。
そのため、ターゲットユーザーとのコミュニケーションをオフラインで取るという出口を設け、コミュニティマーケティングの考え方を導入しました。
大熊:結果として、関係性を強化することにイベントの目的を切り替え、さらに自社の信頼性を高めるために、「何者なのか」を企画と共に顔を見せることで理解してもらうようになりました。
また、営業の仕組み化が進んでおり、この流れで商談を行うと、リードタイムは長くなりますが、商談時には「この人のことを知っている」「何度か会っている」「Fangrowthの商材ウェビナーも視聴している」といった状況で営業が進められるため、営業担当者のスキルに依存せずに、非常に好印象で商談に入ることができるという大きな成果を得ています。
まとめると、リードを集めるだけでは、成果に結びつかなくなってきている現状があります。視聴者のリテラシーが上がっているため、単なる情報提供ではなく、具体的な内容が求められるようになっており、選ばれにくくなっていることが、集客数が落ちている本質的な理由だと考えています。
藤田氏: いやー、面白いですね。今、コミュニティマーケティングをうまく組み合わせることが非常に重要だと感じます。やはり1対nの場面から、どのように個別の認知を取るかというのが営業で求められる部分だと思いますが、オンラインとオフラインをうまく組み合わせることで、効率よく進められることが分かります。
2〜3年前はリードベースマーケティングだけで十分でしたが、今ではそれだけではうまくいかない状況になってきているようです。
ここから先、1年後、2年後にはさらに何かを掛け合わせる必要が出てくるかもしれません。そのため、同じルーティンでやり続けるのは危険であり、特にビジネスの世界では外の世界を見に行くことや、他の企業が実施しているイベントに参加するなど、インプットが重要になってくると感じています。
イベントで成果を出すためのポイント
藤田氏: BtoBイベントを開催する上での課題は、大きく3つあると感じています。
1つ目はセミナーの設計です。実際に、いつ開催するのか、どのように告知するのか、一度決めるとルーティンで回してしまいがちですが、状況に応じてアップデートし、変化させることが重要です。
2つ目はリソースの問題です。多くの方が悩んでいると思いますが、リソースが不足しているため、高頻度での開催が難しくなっています。
3つ目は集客です。世の中には多くのセミナーが溢れており、どのように差別化するかが課題です。大熊さんがおっしゃったように、タイトルが似ていて既視感があるという状況が増えています。
大熊: 成果を出すためのポイントについて、私がデータを基に解説します。成果の定義にもよりますが、多くの企業がウェビナーで成果を出すことを商談や受注と考えています。
ウェビナーで商談化率や受注率を上げるためには、まず最初にファンになってもらうことが重要だと考えています。私たちの指標では満足度をアンケートの「とても満足」や「満足」の2項目で測っています。私たちの直近1年間で満足度が高かったイベントのトップ10と、満足度が低かったトップ5を比較してみます。
補足ですが、私たちの定義する満足度では、アンケート未回答者は不満足とみなしているため、非常にシビアな基準になります。
満足度が高いウェビナーは、具体的な内容が多いウェビナーです。具体的とは、実データや実施結果のデータが示されるものです。また、タイトルと内容の乖離が少なく、自社のハウスリストとターゲットニーズの整合性が高いウェビナーも満足度が高くなります。
そのため、共催ウェビナーなどを実施する際は、事前に共催先と綿密な打ち合わせを行うことが重要だと思います。満足度が低いウェビナーは、他社企画に乗っかっているウェビナーや、商材説明が中心で抽象度の高い説明が多いウェビナーです。
誰のどんな課題を解決するのか、ストーリーがしっかり作られているウェビナーは満足度が高い傾向にあります。
大熊:一方で、商談化率が高いウェビナーは、満足度とはあまり関係がありません。共通しているのは、自社単独か、お客様に登壇いただく事例ウェビナーが商談獲得につながりやすいという点です。
そのため、成果を出すためのポイントとしては、ターゲットの状況に合わせて、全てのイベントから商談を取ろうとするのではなく、まず満足度を高めるための企画がしっかりと作られているか、そしてFAN化を促進するためにTIPSを中心とした満足度の高いイベントが作れているかが重要です。
さらに、顕在層向けにきちんと回数を多く単独ウェビナーを開催しているかも重要です。これにより、月間のウェビナー回数が4回以上になるのが理想です。
データから読み解く成果のでるイベントの設計
藤田氏: ターゲットに選ばれるためには、様々な考え方があると思います。企画やイベントのタイトル、カバー画像でイベントをどう見せるかが重要ですが、そこにフォーカスしている方も多いかと思います。
Peatixで注目しているのが、イベントの設計です。データを見ていくと、様々なことが分かります。例えば、イベントの開始時間です。19時開始や昼の時間帯が多いですが、申し込み者数の山は16時や17時頃に多いことが分かりました。夜開催や昼過ぎ開催が主流と思われがちですが、実際には夕方の時間帯に人気があることも分かります。
オフラインイベントでは、セミナーに参加してそのまま帰れるというメリットがあり、昼間はミーティングが多いが夕方なら落ち着いて参加できるという要因も考えられます。
藤田氏:次に、開催曜日についてです。調査によると、イベントの数は水曜日が多いですが、参加者数は木曜と金曜に多くなっています。以前は、ビジネス系イベントは金曜に行わないのが常識でしたが、最近ではその感覚が変わってきています。
大熊: 私もそう思っていました(笑)。
藤田氏: 私もまだ心の中でそう感じる部分はありますが、時間の使い方が変わってきており、曜日を変えることで実は集客しやすくなることもあるのです。アーカイブ配信の場合、日時を指定してみたり、いろいろ試してみることができるかもしれません。
藤田氏:また、コロナ禍前と後で大きく変化しているのは、イベント参加の申し込みタイミングです。オフラインイベントでは公開時に参加者数が増え、その後は集客が難しくなりますが、オンラインイベントでは前日や当日に申し込みのピークが来るため、その期間にプッシュすることで集客が可能です。
オンラインイベントでは、開催の3日前や4日前にイベントページを公開しても、ある程度の集客が期待できるため、最後の追い込み施策を用意しておくことが重要です。
藤田氏: 次に、申し込みフォームについてです。ビジネス系のイベントでは、参加者の情報をフォームで取得することが多いと思います。多くの質問項目を設けがちですが、実際には質問項目を14問から8問に減らすことで、申し込み完了率が2〜3倍に増加するというデータがあります。
必要な設問をしっかりと絞り込むことが、実は申し込み完了率に大きく影響しているのです。
藤田氏:ターゲットへのアプローチに関して言えば、一般的には特定の職種や業界、役職の方にリーチしようとターゲットリストを利用しますが、この方法では興味のない層にも情報が届いてしまい、非効率になることがあります。
Peatixでは、どのイベントにいつ参加したかというデータを持っているため、例えば直近でマーケティング関連のイベントに参加した人には、そのトピックに興味があるだろうと判断してアプローチすることができます。
このように、直近の行動に基づいたターゲティングを行うことで、効果的に集客ができるのです。このようなリストを活用したり、Peatixのようなサービスを利用したりすることで、ニーズに合ったターゲットにリーチできると考えています。
大熊: ありがとうございます。あと1時間ほど話し合いたいですね(笑)。
まとめとしては、1対Nの企画を作るのではなく、1対1でターゲットに刺さるポイントを企画することが重要だと思います。
今日お話しした潮流からも分かるように、視聴者はすでにウェビナーに慣れており、その前提で考えなければならないと感じています。
マーケティング施策において重要なのは、顧客解像度を高めた上で、彼らが解決したい課題やウェビナーを通じてどのように態度変容させたいのかというストーリーをしっかりと構築することです。
Who、What、Whyといった基本的な考え方をベースに、誰に向けた企画なのか、その解像度を上げて、押し売りではなく信頼を得るための内容にしていく必要があります。この点については、また別のウェビナーでもお話しできればと思っています。
登壇者プロフィール
Peatix Japan株式会社 取締役・CMO 藤田 祐司氏
株式会社インテリジェンス(現 パーソルキャリア株式会社)で営業を担当後、2003年アマゾンジャパン株式会社(現 アマゾンジャパン合同会社)に入社。最年少マネージャー(当時)として、マーケットプレイス事業の営業統括を経て、Peatixの前身となるOrinoco株式会社を創業。国内コミュニティマネージャーチームを統括したのち、営業、マーケティング統括を兼務。2019年6月CMO(最高マーケティング責任者)に就任し、グローバルを含めたPeatix全体のコミュニティマネジメント・マーケティングを統括。
エキサイト株式会社 SaaS/DX部門管掌 執行役員 兼 FanGrowth事業責任者 大熊 勇樹
デザイン会社、ベンチャー企業にて主に新規事業部門での役員経験を経て、2021年4月エキサイトに入社し、執行役員就任。入社後にSaaS/DX事業部を立ち上げ、2年で4プロダクトリリースを行う。事業責任者を兼務している【FanGrowth(ファングロース)】では、現在リリース2年で1000社のマーケターコミュニティを構築し、組織拡大をしている。